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第12回 第91回全国高等学校野球選手権大会 ・下~個人編 今宮健太の「気」 ~2009年09月06日
気合い溢れる投球をみせた今宮健太(明豊)
「菊池雄星の大会」
大会前も、そして、大会が終わった今も、そんな風にして今年の大会は表現される。
しかし、僕は、まったくそうとは思っていない。
確かに、菊池雄星は今大会の注目の的だった。長身から投げ下ろす154㌔のストレートはすごかった。力みのないフォームも理想的だ。けがを押して投げ抜いた姿は感動だった。日常生活から自分を律する彼の生き方も立派だった。だが、僕にはそれ以上に感動させられた選手がいたのだ。
明豊の背番号「6」には大いに感動したものだ。実は、今大会中、この5年では初めて、僕は3度泣いてしまった。高校球児の、ひたむきな姿に心が打たれたからだが、3回中の2回は、同情や慰め、そういった要素から出る涙だった。しかし、残りの1回の感動は確かに違ったのだ。
明豊の遊撃手兼投手、今宮健太の男気に、涙が出た。
忘れられないシーンがある。
敗退することとなった準々決勝の花巻東戦。9回表の出来事である。同点に追い付かれ、なおも1死・二塁のピンチを迎えたが、今宮は、本来、守るべき三塁ベースを明け渡し、マウンドへ駆け寄っていってしまう。当然、花巻東の二走・横倉は三塁へ陥れるのだが、その好走塁も、好走塁に見えないほど、今宮の姿に心を打たれた。
試合前日の、今宮の言葉を思い出す。「(2年生の投手)山野は本当に可愛いやつなんですよ。小学校から一緒に野球をやってきたやつで、僕をしたって、このチームにも来てくれたので、本当に」。
つまり、今宮が三塁を明け渡し、マウンドへ駆け寄ったのはそう話した山野のマウンド上で姿が気になったからだ。兄貴分として、どうしても、マウンド上で半ベソをかいていた山野をほおっておくわけにはいかなかった。三塁ベースは放ってでも…助けたかった。
今宮健太(明豊)
マウンドに登った今宮は、山野の頭をなで、背中を押して、ベンチへと帰らせた。「マウンドは俺に任せろ」といわんばかりに…。試合後、その時の気持ちを今宮はこう話している。
「山野に負けさしたくなかった」
第1球目のストレートは149キロ、続けて、152キロ、154キロとストレートを連発した後、133㌔のスライダーで三振。
続く打者には153キロ、151キロ、153キロ(ファール)154キロ、152キロと連投し、最後は129キロスライダーで三振。
まるで、藤川球児を思わせるような、堂々としたピッチング。
これが、マウンドに上がる前の彼の心意気を見ていたからこそ、この回の今宮のピッチングには震え上がった。涙が出た。
そもそも、ここに来るまでの今宮は、ライバルたちと熾烈な戦いを繰り広げてきた。1回戦では興南の島袋に対し、1点ビハインドの8回裏、二死で回ってきた打席で狙い澄ましたかのような長打を左翼超えに放ち、4番・阿部の適時打で同点ホームを踏んだ。試合後には「長打が欲しいと思ったので、少し、大きい目のスイングで狙った」と口にしたほどだ。
2回戦の西条戦では、試合前に、「相手は注目されている投手なので、そういうのには負けたくない。秋山君の得意球・ストレートを狙っていきたい」と、宣告したほどだ。結果的には打てなかったが、試合後の彼のコメントは見事だった。
「個人的には完敗です。あんな重いストレートは見たことがない」
ここでも、分かってもらえたと思うが、今宮の魅力はマウンドやバッティングだけではない。そのコメント力にも魅力十分なのだ。3回戦では「雑誌で注目されている投手。対戦したかった選手の一人。島袋といい秋山といい、僕には運がある」と試合前に語ったほどだ。
そして、相手の庄司も今宮にライバル心を燃やす逸材だったが、3四球2安打。9回にはビハインドから技ありの右翼前適時打を放って、同点に追いついた。圧巻なのは、それまで大ぶりになっていたバッティングフォームを変えて、コンパクトなスイングにしての結果だったのだ。
実は試合前にこんなことを言っていた。
「今までのフォームだったら100%打てない。ここに来るまでの練習で、変えてきた。きょうは打てるかは分からないけど、楽しみにしている」
試合後には、そのフォームについてばかり聞かれたが、
「前の試合のフォームを見てもらえれば、素人でも違いが分かると思いますよ」といったほどである。その技術力とコメント力、素晴らしい。
準々決勝で敗退後、今宮の目に涙はなかった。本来は泣きたかったであろうが、力を出しつくした自分に悔いはなかったのだろう。
「本当に、きょうは2年生がよく頑張ってくれた」。
敗戦の中でもそういう言葉を選んだ今宮に男気を感じずにはいられなかった。
菊池雄星ばかりが騒がれているが、僕は、今大会一番騒がれるべきは、明豊の背番号「6」、今宮健太だと今も、思っている。
最後に個人的に、今大会のベストナインを選出した。
MVP 今宮健太(明豊)
投手 庄司隼人(常葉橘)…今宮との真っ向勝負は感動した。
捕手 松浦昌平(札幌一)…強肩という言葉だけでは表現しきれない肩、スローイング
一塁手 横倉怜武(花巻東)…随所に光るいぶし銀。欠かせぬ存在。
二塁手 原田拓実(天理)… もっと上で見たかった選手。
三塁手 河合完治(中京大中京)…守備、打撃、相手を気遣うコメントの数々。
遊撃手 今宮健太(明豊)…
左翼手 高橋義人(日本文理)…打率6割。
中堅手 佐野太地(東北)…走攻守三拍子揃う。三塁打は圧巻の走塁だった。
右翼手 西川遥輝(智弁和歌山)…右手一本で安打量産。レーザービーム。イチロー二世。
※各チームからは一人まで。なので、堂林(中京大中京)や小泉泰樹(常葉橘)、柏葉康貴(花巻東)は選外に。
(文=氏原英明)
(撮影=佐藤純一)
| 第91回大会 | 優勝 | 中京大中京 |
|---|---|---|
| 準優勝 | 日本文理 | |
| ベスト4 | 花巻東 、県岐阜商業 | |
| ベスト8 | 帝京、明豊、都城商、立正大湘南 |

- 氏原 英明
- 生年月日:1977年
- 出身地:ブラジルサンパウロで生まれる
- ■ 高校時代から記者志望で、新聞記者になるのが将来の夢だった。
- ■ アトランタ五輪後に、スポーツライターに方向転換。
- ■ 大学を卒業後、地元新聞社に所属。
- ■ その後スポーツ記者として、インターハイなど全国大会の取材も経験させてもらい、数々の署名記事を書く。
- ■ 03年に退社。フリー活動を開始。
『週間ベースボール』、『ベースボールクリニック』(ベースボールマガジン社)、『アマチュア野球』(日刊スポーツ出版社)『ホームラン』(廣済堂出版)、『Number』(文藝春秋)、『Sportiva』(集英社)、『高校野球ドットコム』『ベースボールファン』などに寄稿。フリーライターとしての地位を固める。
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